日本で一番大きな自動車メーカーと言えば「トヨタ」ですよね。
そのトヨタが販売店の統合再編を進めています。
販売店の統合再編ってどういうこと?
そもそもトヨタの販売店って、どこも一緒なの?
そんな疑問を、元トヨタ販売店営業マンが解説していきます。
トヨタ販売店の種類と特徴
それではまず、販売店の種類の紹介と、それぞれの特徴を実際に働いていた私の視点から紹介してみたいと思います。
また、それぞれの販売店のチャネルの特性が、顧客の平均年収の違いと親密に関係してきますので、販売店名の横には大体の顧客年収金額を記載してみました。
トヨタ店(顧客年収=約700万円〜1000万円)
クラウンやランドクルーザーなどを代表とする、高級車を扱うイメージが強い販売チャネルですが、サクシードなどの商用バンやダイナなどのトラックも取り扱う、対法人・対官公庁色も強い販売店です。
トヨタ自動車が独自の販売網を持っていなかった時に、営業のスペシャリストである販売店から車を販売するようになった最初の販売店チャネルであり、トヨタ創業当時からのお客様を持っていたり、国内の割と富裕層のお客様を相手に商売をしているケースがほとんどですね。
1997年にハイブリッド車のプリウスが発売されトヨタ店のみで販売されていたのですが、3代目にフルモデルチェンジした2009年以降プリウスは全チャネル販売となったため、プリウス独占販売店としての特徴も消えました。
最近では、ノアやヴォクシーの兄弟車であるエスクァイアも登場するなど、少しずつ価格帯を下げ、ダウンサイジングのユーザーの声にも対応しつつありますが、依然としてクラウンやランドクルーザーのモデルチェンジの時期の買い替え需要に頼っている傾向は昔から変わらないですね。
トヨペット店(顧客年収=約500万円〜800万円)
マークXやハリアー、アルファード、ハイエースなどを取り扱いとする、トヨタの中でも中間クラスの車格や値段帯の車を中心にラインナップする販売チャネルです。
マークⅡなどのセダンが広く人気があった時代もありましたが、現在では街乗りSUVの代名詞「ハリアー」や、国産高級ミニバンの代表格「アルファード」、商用車やファミリーカー、趣味車としても大人気の「ハイエース」などが販売台数の半数以上を占めています。
トヨタペット車ユーザーの年代層も、取り扱い車種の変化によって若くなってきています。
特に、ハリアーやハイエースといった車種がそれを牽引している点は、中年層をターゲットとしたトヨタメーカーとしての思惑を良い意味で裏切っていると言えるでしょう。
4チャネルあるトヨタ販売店の中でも一番安定しており、恵まれたラインナップと感じますので、一番恵まれた販売店といっても過言ではないでしょう。
また、「ハリアー」「アルファード」「ハイエース」が中古車市場でも好調の為、新車で儲けて中古車でも儲けるという構造も、その理由の一つです。
カローラ店(顧客年収=約350万円〜600万円)
ハイブリッド車が広く普及するまでは、トヨタの基幹車種であったカローラ系や、ノアやシエンタといった小型ファミリーカー、パッソなどのトヨタ最小コンパクトカーを扱うトヨタのエントリーチャネル的な販売店です。
販売価格対が安価な車種が多く、最高でもエスティマやカムリなどのトヨタの中でも「中の上」的な位置の車種になりますので、一番大衆的でファミリー層が主なユーザーとなります。
プリウスの登場により、一気に立場を失ったカローラ系。
プリウスが発売されてから徐々に勢いを失っていったカローラ系ですが、それまでトヨタ店のみで販売されていたプリウスが2009年に全チャネル販売となったことで、カローラ系はプリウスにトヨタの基幹車種の立場を一気に奪われる形になりました。
以降、カローラ販売店や開発チームも試行錯誤して様々なカローラブランドを打ち出して販売台数を上げるキャンペーンを行いましたが、衰退の一途を辿るばかりです。
ヴォクシーの登場とそのルックスの差から、ノアの売り上げも半減し、アルファードの登場まではトヨタ最上級ミニバンであったエスティマも立場を追いやられた背景を今も残しています。
残念ながら、売れ筋車種の少なさから販売店の中では一番恵まれない位置に追いやられている感は否めないですが、ダウンサイジングが進む国内外の車業界の中において、カローラ店取り扱いの車種が人気が出てきそうな予感がしています。
ネッツ店(顧客年収=約350万円〜800万円)
トヨタの持つ4つの販売チャネルの中では、独特の路線を進む販売店です。
それは、取り扱い車種に大きく現れていますが、超小型車のiQや欧州がメインの市場であるオーリス、アルファードの落ち着いた気品あるデザインからは一線を画すヴェルファイアや、弟分ミニバンのヴォクシーなど、挑戦的なデザインやパッケージが主流のカーラインナップとなっています。
個性的な外見の車が多い為、ユーザーターゲットを若年層や若年ファミリーとしており、比較的その通りの顧客層であると思います。
近年では稼ぎ頭のヴェルファイアの存在が大きく、高級車を好む富裕層からの支持もありつつ、ローンを組んででもヴェルファイアを購入したいという世代が多いためか、ローンの金利手数料の上でも大きな利益がえられている販売店です。
トヨペット店の取り扱い車種「ハイエース」の兄弟車の「レジアスエース」もあるのですが、なぜだかこちらは不人気なのです。
「ハイエース」という名前が知名度がありすぎて、中古車として販売する際には数十万円の差がつく事もあり、レジアスエースを購入しても、車名のエンブレムやシールをハイエースに変更する人もいるくらいです。
全く同じ車両なのに、販売チャネルと車名が違うだけで、ここまで格差が出てしまうのもトヨタブランドの面白い所ですね。
ちなみに、ヴェルファイアも内装の内張をめくると出てくるのは、「アルファード」の車名プレスです。
レクサス店(顧客年収=約800万円〜)
トヨタが自社のプレミアムブランドとして位置付け、アメリカから始まり、今や国内外で人気を獲得している高級車販売店が「レクサス」です。
その目指すブランドイメージは、ドイツ車やイタリア車などの欧州車が持つ高級感とは異なり、車内での快適性や静粛性、日本らしい気遣いの行き届いたクルマ作りに現れています。
主にトヨタユーザーからの乗り換えが多く、日本国内においては国産であることの安心感がレクサスブランドの人気を支えています。
販売会社としての「レクサス」ではなく、地域ごとのトヨタ系販売会社や、トヨペット系販売会社、ネッツ系販売会社などが、その販売会社毎にレクサスの販売権利をトヨタと契約する事で「レクサス販売店」を持てるという仕組みが主になっています。
レクサス販売店を持つには、ハード面でもソフト面でもかなり高いハードルがあり、財力や安定感の無い販売会社では持つことが出来ません。
ですので、最寄りのレクサス店へ行って、会社名を見るだけで、地域毎に4つある販売店の中でも力がある販売会社を判断する一つの基準になるので、面白いですよ。
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トヨタ販売店統合の理由と今後のトヨタディーラーの在り方
現在、既に東京地域では始まっている、4チャネル統合販売網ですが、トヨタはこれを今後全国区に広げようとしています。
消費者にとっては、全ての販売店で全てのトヨタの取り扱い車種が増えるので、購入する時に色々な店に見に行く手間が省けて都合が良く思えますが、実際に統合される地方の販売店は、実際のところ戦々恐々としている事でしょう。
トヨタ自動車が販売店を統合再編する理由と、今後のトヨタディーラーがどうなっていくのかを、元トヨタディーラー営業マンの視点からお伝えします。
トヨタはどうして販売店を統合するのか?
一番大きな理由としては、国内において車が売れる総台数が減少してきている。
という部分だと思います。
さらにその理由として考えられるのが、
1:少子高齢化、人口減少でクルマユーザーが増える見込みがない
2:カーシェアなどの個人が所有しない車の使い方など、多様化が進んでいる
3:軽自動車や中古車の需要へ移行しており、乗用車のシェアが以前から減ってきている
というのが、主な部分かと思います。
そうした影響が、総販売台数の減少に影響してきているのですが、車が売れる台数が減るという事は、単純に売り上げが減ります。
つまり、国内自動車産業全体で見ても市場の規模が縮小傾向にある中で、これまで通り沢山の種類の車種をラインナップすると、それだけ車種あたりの開発コストが占める原価率が高くなり、一台当たりの儲けが少なくなってしまう=今の経営を現状維持することさえ難しくなっていくという事です。
これは数年前に、トヨタ自動車メーカー担当者から聞いた事です。
ですので、将来的には今あるラインナップの車種を減らしていく事で開発コストや工場の生産効率を改善し、トヨタ自動車としては利益を確保していくという事。
同時に、現在あるトヨタ、トヨペット、カローラ、ネッツを統合再編する事で、今までよりもよりスタッフ効率を上げたり、輸送費を抑えたり、経費としてかかる部分を改善していく事でメーカーとディーラーの存続を狙っているのです。
これが、トヨタ系販売店の統合再編の理由としては適当かと思いますが、そうなるとメーカー自体も人員の削減や、トヨタ自動車に納品している下請けの仕事も減ってしまうかも知れません。
しかし、それ以上に影響を受けると考えられるのが、販売店の存在です。
では一体、これからの販売店はどうなっていくのでしょうか?
トヨタディーラーはどうなるの?元トヨタディーラー営業マンが考えるこれからのトヨタ販売網
今まではそれぞれの販売店でしか販売していない専売車種を顧客に買ってもらう事が出来る状態でした。
近年では併売車種は増えてきていたとはいえ、専売出来る車に関しては値引き競争もそこまで激しくなかったため、ある程度の利益が確保できたり、比較的容易に販売出来ていたはずです。
しかし、それが全販売店同じラインナップで、横一線に並んだ時点で何がおこるか。
簡単です。
各販売会社の競争が今まで以上に厳しいものになります。
自動車ユーザーの数が減っていき、同じ条件下に置かれた数ある販売店の中で自社を選んでもらう事が難しくなる事は明らかです。
それが、地域の中で今まで財力や人材を確保出来ていなかった販売会社にとっては尚更に大変なことになります。
画期的なサービスで他と差別化を図っていくのか、無理をしてでも値引き合戦に勝利していくのか。
方法はそれぞれの経営者と、トヨタ自動車メーカー担当次第でしょうけれども、立場の弱い販売店にとっては厳しい環境へ突入し、逆に今までしっかりと企業体力を備えてきた販売会社にとってはチャンスになるでしょう。
トヨタ販売店の統合再編は、現在の日本社会全体の縮図でもあり、「強いモノが勝ち、弱いモノは淘汰されていく」という流れになると思います。
顧客にとっては、一つの店舗で全ての車種を選ぶ事が出来て、値引き額やサービスが向上するような良い思いをする事になっていく一方、販売会社で働く労働者にとっては不安な要素が潜んでいます。
統合再編という中で、販売会社が販売会社を買収する事も出てくると予想しています。
そうなった場合、買収される側の販売会社の管理職と営業職は実力のある人間以外は人員整理をされる事が考えられます。
しかし、メカニックに関しては、現在全国的に人員不足なので現状の賃金でそのまま吸収されていくような事になると思います。
役職によっても、実力によっても今の自分の立場が大丈夫な人と、そうでない人に分かれていく様子は、今まで以上に一気に加速していくと感じています。
トヨタ自動車という国内最大級の企業が起こす大きな動きですので、消費者にとっても生産者にとっても、販売に携わる人達にとっても様々な影響を与え、日本の経済に対しても良くも悪くも大きな変化を与える筈です。
トヨタ販売店の統合再編は、単純に値引き合戦が増えてユーザーが安くでトヨタ車を購入出来るというものではなく、回り回ってシワ寄せが消費者に戻ってくるくらい、大きな変革になるでしょう。